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火災物理・化学領域

火災・爆発現象の解明を目的に、様々な基礎的研究が行われている。

2024年度は、燃焼生成ガスの毒性ならびに燻焼から有炎燃焼への遷移メカニズムに関する研究成果について報告する。

日本における建築内装材料の燃焼生成ガスの有害性試験の代替を目指し、実験動物使用に対する代替手法を検討するために、現行のガス有害性試験装置にフーリエ赤外分光光度計(以下FTIRとする)を設置し、ガス有害性試験から得られたマウスの行動停止時間とFTIRから得られたガス分析に関して比較検討を行った。有効暴露量率(FED)を用い、有毒性ガスの中で化学的窒息性に分類されるガスと併せて単純窒息性ガスに分類されるCO2に関しても着目した結果について分析を行った。ガス有害性試験装置における毒性評価の手法として、FEDを用いた検討を行う場合にはCO2濃度を考慮することでマウスの行動定時間と相関性のある結果が得られた。

低温で緩慢な燃焼形態である燻焼から、より高温で反応が速い有炎燃焼へと反応モードが遷移することがある.このような遷移現象はタバコ火災や林野火災でしばしば発生し、火災被害の急拡大の原因となる.2024年度の研究では、燻焼から有炎燃焼への遷移条件を予測できる数理モデルを構築した(図2).低酸素濃度の条件では燻焼が起こりやすく、酸素濃度が上昇すると有炎燃焼と燻焼の両方が起こり得る領域が現れる.さらに酸素濃度が上昇して臨界値を超えると、燻焼は起こらず専ら有炎燃焼が生じる.このモデルにより、遷移条件に及ぼす空気流速の影響なども評価できる。

図1 FEDとマウス平均行動停止時間の関係
図2 理論解析により得られた燃焼形態マップ

避難・人間行動領域

この領域は火災時の避難安全だけでなく、火災現場における消防職員の労働安全などについても対象としている。

(避難安全のためのセキュリティ対策)

セキュリティゲートのようなアクセス制限が建築物に設置されることが増えてきた。防犯等の目的でアクセス制限する装置により、避難や消防活動に支障が生じることが危惧される。本研究では、避難経路上にあるアクセス制限などのセキュリティの実態調査などを通じて、避難安全に問題が発生しないための対策について検討する。ここでは、被験者による破壊錠の操作に関する実験を実施し、4種類の破壊錠を解錠し扉を開放するまでの時間や、解錠操作に必要な力などのデータを収集し分析した。開放までに要した時間は非常錠の種類により大きく異なる。平均で6.3秒から27.6秒までばらついている。特にType-B及びCについては、約60秒近く解錠することができず、それぞれ6人、3人が断念した。操作の容易さは、総合的にType-D>A>B≒Cの順となる。Type-Dを除き、初めて見ただけでは解錠の操作が分かり難く、非常時の操作には課題がある。操作の容易性の順序は概ね予想通りの結果であるが、操作の容易さと握力(操作に要する力)との相関性はあまり見られない。

図3 実験に使用した4種類の非常錠
図4 開放までに要した時間

構造耐火・材料防災領域

この領域は、主として建築物を構成する部材や架構の火災安全性および建築部材に加えて、内装仕上げ、什器、家具等に用いられる材料の火災時安全性に対して検討を行ってきた。

(木製垂れ壁で囲まれた天井近傍の火災性状に関する実験的研究

本研究は、梁や垂れ壁を木材現しとした天井近傍の火災性状に関する技術的知見の収集を目的とし、木製垂れ壁で囲まれた天井を想定した実験を行った(図5)。実験では、0.9m×0.9mおよび0.9m×1.8mの平面寸法の天井周囲を木製垂れ壁で囲い、垂れ壁全面が概ね均一な加熱を受ける条件において、垂れ壁の深さや火源条件が垂れ壁の受熱性状や燃焼性状に与える影響などを確認した。

その結果、木製垂れ壁で囲まれた空間では、垂れ壁4面が全て閉鎖されていると天井面付近では酸欠状態となり、煙層温度はフラッシュオーバー発生目安の500~600℃に達しているものの急激な燃焼拡大は発生せず、有炎燃焼は火源近傍のみであった。また、火源条件や垂れ壁深さが同じであれば、垂れ壁で囲まれる天井の平面サイズが小さい方が熱が籠りやすく、木垂れ壁の熱分解が促進される傾向がみられた。

図5 実験装置

消防防災・産業火災領域

この研究領域では、「科学技術を活用して消防活動を高度化する」、「化学物質・産業により発生する火災から守る」という視点から研究を実施している。

消防隊員の労働災害防止に向けた、心身の健康管理・効果的なトレーニング方法に関する研究においては、消防本部と連携し、実際に使用する装備を付けた消防隊員のトレーニング中に、生理学的指標を測定し、活動の安全性を保つための管理手法や効果的なトレーニング方法を立案する研究を継続している。この他、消防隊員の暑熱順化トレーニングの経時的変化をオンサイトで分析し、夏季の消防活動における消防隊員の熱中症発症リスク低減を目的とした研究、消防防災分野でのドローン技術の活用の研究、環境負荷を考慮した消火剤の消火能力評価の研究も行った。

産業を発展させるエネルギー・環境問題と火災についての問題点を、化学物質の観点から調査研究を行った。例えば林業と山林火災における有害物質、再生可能リサイクル材料やバイオマス発電所における火災、原子力発電所の廃棄物等の無機化合物の火災危険性などについて実施した。

以上に加えて、リチウムイオン電池の反応暴走に関する実験(図6)やガス漏洩拡散に関する実験(図7)も実施した。

図7 ガス漏洩拡散実験
図6 リチウムイオン
電池の反応暴走実験